マウスで描く 骨折日記
西田 進

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最新の更新日 06-2-22
 スキー大好き人間の私は、今までスキーで怪我をしたこ
とがないことを内心誇りにしていました。 ところが、今回、
不覚にも、コブ斜面を滑降中に転倒し、第1腰椎を圧迫
骨折しました。 反省することしきりです。
以下は、入院中のつれづれに、マウスで描いた骨折日記
です。

44日間の入院でお世話になりました主治医のドクター、
看護師の皆さん、ヘルパーさん、理学療法士さんはじめ
すべての医療スタッフに、心から感謝します。

アスリートの皆さん、くれぐれもスポーツ傷害にはお気をつけ下さい。
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2006年1月16日(月)
野沢温泉スキー場のコブ斜面で転倒し、腰を強打

1月16日(月)、あるスキークラブの野沢温泉スキー場での合宿が終わり、自由滑走の最後の滑降であった。 有名なコブ斜面「牛首コース」の下部で、転倒し、腰を強打した。 何とか自力で滑って宿に帰り、友人の車で帰京した。

転倒したコブ斜面は、数日前の雨で雪が融けた後の冷え込みでアイスバーンになっていた。 私は正月明けからあちこちのスキー場を巡り、疲れが溜まっていたかもしれない。 スキーの押さえが利かず、コブで飛ばされて、ドスーンと背中から落ちたようである。




2006年1月18日(水)
第1腰椎圧迫骨折

怪我の翌日病院に行き、レントゲンを撮ってもらい、第1腰椎圧迫骨折とわかる。 消炎・鎮痛剤をもらって、いったん帰宅したが、痛くてたまらない。 翌々日、入院させてもらう。

病院では、先ず胴体にがっちりとギプスをはめられる。 以後、ベッドと車椅子の生活である。 70歳にして、生まれて初めてのスキーによる怪我で、生まれて初めての入院となり、なんとも残念至極。

主治医の許可を得て、病院にノートパソコンとPHS(都市型携帯電話)を持ち込み、インターネット環境を確保する。 これで、友人とのメール交換と、いろいろなクラブのホームページ更新が行え、ITに関してはいつも通りの生活が出来る。

日頃の超過密の生活から解放されて、読書、CD鑑賞などを楽しむ。 つれづれなるままにパソコンに向かって、マウスで漫画を描き始める。 先ずは第1腰椎はどこにあるのか、インターネットで調べる。

ギプス Gips ドイツ語で「石膏」のこと。ここではギプス包帯。
  
しばしば誤ってギブスと呼ばれるが、日本人にとって発音しや
  すいためだと思われる。 私は物理学者のギブス Gibbs だと
  思っていた。




2006年2月1日(水)
さまざまなリハビリ運動


入院14日目、今日からリハビリが始まった。

胴体にギプスをはめて体を動かないでいると、いざギプスをはずしたときに脚が弱っていて、歩けなくなる。 私は腰椎を骨折しただけで、脚に怪我はないので、患部の痛みが取れたのだから、早速、脚の運動(リハビリ)をはじめようというわけである。

下の図をご覧下さい。胴体にギプスをはめたままで、もっぱら脚の運動をする。 軽いものからはじめて、次第に強度を増していく。 図の運動のほかに、自転車漕ぎ(エアロバイク)もやった。

私は、小道具や設備を使う運動は初めてであるが、結構面白い。 午前1時間、午後1時間の予定であるが、つい熱中して長くなる。




2006年2月10日(金)
エアロバイクと運動生理学

リハビリが始まって10日目。

胴体にギプスをはめて体を動かさないでいると、脚が弱っていてしまうので、ドクターの指示で始めたリハビリ運動であるが、その種目はいろいろある。 中でもエアロバイク(自転車漕ぎ)が面白い。

エアロバイクについてはご存知の方も多いが、簡単に説明しておこう。 使い方には、「一定負荷モード」、「一定心拍モード」などいろいろなモードがあるが、私は「一定負荷モード」が好きである。 パネルには、経過時間、心拍数、負荷、積算消費カロリーなどが表示される。一例を示すと、

 経過時間      30分
 心拍数        110前後
 負荷         45ワット
 積算消費カロリー 80キロカロリー

ここで、ペダルを踏みながら考えた。 45ワットで30分続けると、私が発生したエネルギーは
 45ワット×1800秒=81キロジュール
熱の仕事等量は4.19ジュール/カロリーだから、(高校の物理でやった!) 81キロジュールをカロリーに換算すると、
 81キロジュール÷4.19ジュール/カロリー=19.3キロカロリー
となる。

私は、80キロカロリーも消費しているのに、19.3キロカロリー分の仕事しかしていないのだ。体の効率が悪すぎるような気がする。  このことが気になって、その夜は寝られなかった。(地下鉄の電車をどうやって入れるのか考えると寝られない、という話と同じである!)

翌日、病院を抜け出して、すぐ近くにある大型書籍店に行き、沢山の運動生理学の本を立ち読みした。 その中に次のことを見つけた。「骨格筋の収縮の動力源であるアデノシン三リン酸(ATP)が使われると、そのエネルギーの約3/4は熱になる」

人間のエネルギー源には、糖、脂肪、タンパク質(これは飢餓状態にならないと使われない)があり、これらからエネルギーを取り出すには、有酸素運動と無酸素運動がある。 いずれにせよ、アデノシン三リン酸(ATP)の分解による点はすべてに共通であることはよく知られている。

しかし、ATPから運動エネルギーを取り出す効率が約1/4であることは、この本(海山堂 スポーツ生理学の基礎知識 26頁)で始めて知った。 書店に並んでいる本やインターネットで調べた範囲では、エネルギー効率に触れているものは、この本以外には、見当たらなかった。

昨日私は、80キロカロリーも消費しているのに、19.3キロカロリー分の仕事しかしていないのに驚いたが、人体の運動エネルギー発生の効率が約1/4であることを考慮すると、エアロバイクの表示にピッタリ一致するではないか。

私は、このAEROBIKE(Combi社製)が賢いのに驚き、可愛くなった。 以後、毎日午前30分、午後30分お世話になっている。


2006年2月16日(木)
医学と医療(1) 診ることは医の始まり

第1腰椎を圧迫骨折して1ヶ月経った。 ということは、すでに1ヶ月間ギプスをしていることになる。

小生が入院しているこの病院は、立地条件、施設、医療スタッフに恵まれている。 特に整形外科のリハビリは充実していて、4人の理学療法士さんが指導してくれる。 神経系のリハビリの高齢者のみならず、スポーツ傷害のリハビリに励む若者も多い。

私は医学については全くの素人であるが、在職中に、わが国最初の全身用X線CTスキャナーの開発に携わったことから、医学・医療には多少の関心を持つようになった。 今回の入院中にいろいろと考えさせられることがあったので、その1つを「医学と医療」と題して書いてみよう。

画像診断機器といえば昔はX線透視しかなかったが、今ではCT、MRI、PET、DSA、エコーなど様々登場した。 これらはすべて形態的または機能的に身体を診るためのものである。 まさに医学は診ることから始まるといっても過言ではない。

ところで、ギプスは各人の体に合わせて作ったいわばオーダーメイドの装具である。 それでも体に合わず苦痛を伴うことがある。 私は体脂肪率10%以下の「骨皮筋右衛門」であるので、腰骨(こしぼね)の一部、腸骨(ちょうこつ)の部分が、ギプスの内面に当り、皮膚が破れて痛くてかなわない。 そこで、ドクター(医師)やナースさん(看護師)など、いわゆる医療スタッフに何回も苦痛を訴えるのであるが、ギプスの当るところにガーゼを挿入するだけで、1週間経っても改善されない。 とうとう1日の帰宅の許可をもらって、自分で調べることにした。 
医学は診ることから始まる
(CTスキャナー)
ギプスの中ががどうなっているかは自分にはわからない。 そこで妻に照明具と手鏡を持ってきてもらい、ギプスの隙間から痛いところを観察した。 すると、左上の図のように体の一部の角張ったところが圧迫されて皮膚が破れ、カサブタが出来ていることがわかった。
そこで、妻が持っていた外反母趾用のポリウレタンのリングスペーサーを2個もらい、重ねてガーゼとともにて患部に当てた。 効果はてきめんで、痛みは和らいだ。

こんな簡単なことが、どうして医療スタッフに出来ないのだろうか。 理由は2つ考えられる。

1つは、医学は学問であり病気の核心部に対処するもので、学問でない部分は看護師の仕事であるということが暗黙のうちにあるのではないだろうか。

もう1つは、私を含めて多くの日本人は、小学校以来教科書で知識を覚える教育は受けてきたけれども、自分の目でものを観察し、判断し、対策する、という教育は、ほとんど受けてこなかった。そのため、数人の医療スタッフが私の体を見てくれたけれども、誰もギプスの隙間から中を観察しなかったのである。

医療とは、医学などの技術を活用して患者を身体的に精神的に救済するものであると思う。 高度な医学手段、医学知識はもちろん重要であることは言うまでもないが、医療とはいったい何なのか、医療スタッフも患者も考え直したいと思う。
上図は対策前、 下図は対策後


                    蛇足ですが---

「見ること」の大切さを教えてくれたS社のA工場の工場長さんの話

S社のA工場といえば、日本の高度成長時代の代表的な工場として知られている。
ところが、その工場の社員食堂の飯が不味いという苦情が総務部長の耳に入った。総務部長は厚生課長を呼んだ。

 総務部長 「いくらの予算でやっているんだ」
 厚生課長 「○○円です」
 総務部長 「それではうまいものは出せんだろう。△△円に増やせ」

△△円に増やしたが、社員食堂の飯が不味いという苦情は絶えない。 このことが工場長のKさんの知るところとなった。 早速Kさんは給食時間の30分前に食堂に行ってみた。 食堂では12時からどっと押し寄せる社員にサッと食事を提供できるように、丼に飯を注いで3段重ねにして準備中である。 Kさんはハッとした。 これでは30分後に社員が食べるときには飯は冷えており表面はパサパサである。 
「飯が不味い」というのは「副食が不味い」というのではなく、文字通り「飯が冷えていて不味い」のである。 工場長は、厚生課長に命じて、配膳の際に飯を注ぐように改めさせた。 これで飯が不味いという苦情がなくなったという。

工場長だったKさんはS社を退職後、この話を枕にして 「見ることの大切さを教えるセミナー」 を開設し、全国を行脚したという。


2006年2月20日(月)
医学と医療(2) 病室で考えたこと


この病院の整形外科には沢山の6人用病室があるが、大雑把に言うと若者部屋と高齢者部屋に別れているようだ。 もちろん男女別。
若者部屋はスポーツ傷害等で手術を受けた人が多く、高齢者部屋は加齢からくる神経系の手術を受けた人が多いようである。 たまたま私は、高齢者であるがスポーツ傷害であるので、患者の収容の都合により、若者部屋と高齢者部屋の両方を体験できた。


若者部屋は主にスポーツ傷害であるから、雰囲気は明るい。 リハビリ室で患者に出会うと、まさにアスリートの筋力トレーニングさながらである。 一方、高齢者部屋は70歳以上の人が多く、痛みに耐えている姿は外目にも痛ましい。 以下、私が高齢者部屋に世話になっていたときに、医療について考えたことを記そう。

高齢者と家族
身寄りのない患者は別として、多くの患者の家族は毎日のように見舞いに来る。 しかし、患者と家族の会話から、家庭内で患者が疎ましい存在であることが窺われることが多い。 特に親父を見舞う息子の場合、息子は親父の姿に自分の将来を映すのであろうか、聞くに堪えない会話を耳にすることもある。 私も高齢者の仲間であるので、他人事でない。 高齢者は如何にあるべきかは、我々にとって心すべき問題であると思った。


うわ言は人生の残像?
麻酔の影響が残っていたり、認知障害気味の患者からは、病室で、「うわ言」を耳にすることも少なくない。 「うわ言」はその人の人生を色濃く映すものかもしれない。 私よりも一回り先輩である同室の患者は、戦中、戦後、高度成長時代を仕事一途に生きてこられた方であろう、私には涙を誘う「うわ言」であった。

私事で恐縮だが、私の体験を一言。 私の父は、長男である私にはことの他厳しいかった。 すでに意識が混濁した父の臨終に私が立ち会ったときに、「長男がこんなところにいてどうするのだ!」と、父に叱られた。 私には、「俺を見舞ったりしないで仕事に行け」という意味だということはすぐに分かった。 旅行好きだった母は、痛み止めのモルヒネの影響の下で、病院と民宿をごっちゃにしていた。 信仰深かった義母は、やはり麻酔薬の影響で、「病床に観音現れ春うらら」と発句した。 義父は老うことなく他界した。

日頃善からぬことを考える私は、どんな「うわ言」を言うか今から心配である。


終末期医療よりも緩和ケア
現代の医学で回復の見込みのない病気の終末期にはモルヒネを使って痛みを和らげることは最近では常識になったようである。 「あなたはもう終末ですからか、今日からモルヒネを使います」 というのではなく、治療と平行して痛みを和らげるために処方をしてもらいたいものである。 これを「緩和ケア」というそうだ。 ところでWHOの統計によると、我国のモルヒネ使用量は先進国の数〜数十分の1であるという。 我国では痛みをこらえるのが美徳ということであろうか。


セカンドオピニオンにも保険点数
最近はセカンドオピニオンを求める患者は少なくないという。 今年の4月からセカンドオピニオンのためにカルテを開示する側に健康保険が適用されることになったと先日の新聞が報じていた。 ただし、セカンドオピニオンを提供する側には適用されない。 セカンドオピニオンを提供することは医療行為でないということであろうか。 4月の改正は一歩前進だが、医療というものを患者の立場に立って、もっと広い意味で考えて欲しいものである。


2006年2月24日(金)
ギプスからコルセットへ


2月17日には、1ヶ月間自分の体の一部のように付き合ってきたギプスとお別れした。 代りにコルセットとのお付き合いが始まった。

私はコルセットは布製の柔らかいもの(ソフトウェア!)と、勝手に想像していた。 ところが与えられたものはアルミフレーム製の硬いもの(ハードウェア!)なので、びっくりした。 このコルセットは、腰椎圧迫骨折の患者が腰椎を正しい位置に保てるように、胸と腹と背に圧をかけることを考慮した、医学的には優れたコルセットである。

しかし、このコルセットにも次のような使用上の不具合があった。
肥満の人ならば問題ないのかもしれないが、体脂肪率10%以下の私は、自分で工夫して問題を解決する必要があった。
留め具のネジの頭が飛び出していて痛い
コルセットの端が腰骨に当り痛い
コルセットを締めると正しい位置から回転してしまう


折角の医学的に優れたコルセットであるのだから、今少し人間工学的に工夫されれば、患者にフレンドリーになるのに残念だなと思った次第である。
アルミフレーム製のコルセットは
医学的には優れたものであるが---


2006年3月3日(金)
いよいよ退院、ただしコルセット着用が条件


3月3日、いよいよ退院。 ただし、当分の間、コルセットを着用するという条件が付いている。 受傷から46日目、44日間の入院であった。退院の日には、息子が車で迎えに来てくれた。

今後は、2週間に1回のレントゲン撮影を受ける必要がある。 リハビリは自宅で行えばよいとのことだが、もう少し理学療法士さんに教えて頂きたいということで、4月一杯時々通うことにさせてもらった。

現在は、通常の姿勢では患部の痛みは全くなく、コルセットをはずして深く腰を曲げたときに少々痛む程度である。 リハビリの際にコルセットをはずし、腰の曲げられる範囲を少しづつ広げるストレッチ運動や、腹筋・背筋を鍛える運動が多くなり、その効果は顕著である。
これから、時々リハビリに通院しながら、自宅で療養することになる。

最後になってしまいましたが、私達親子二代全員がスポーツ整形でお世話になっているドクターの先生方、優しく看護して下さった看護師の皆さん、お世話になったヘルパーさん、リハビリを指導して下さったカリスマ理学療法士さん、直接お目にかかったことはなかったが美味しい食事を作って下さった栄養士と調理人の皆さん、そしてすべての医療スタッフの皆さんに、心からお礼申し上げます。 それから、毎日見舞いに通ってくれた妻にも感謝!
コルセットを付けて退院
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