ノルウェー----現代スキーの父ノルハイムの生家を訪ねる |
冬の北欧を訪ねる妻と二人の個人旅行の後半はノルウェーである。 14世紀以来400年以上の間デンマークに統治されていたノルウェーは、1814年に同君連合という名の下でスウェーデンの支配下へ移譲された。 ノルウェーが独立するのは1905年である。 以来、民主的諸改革が他の北欧諸国に先んじて行われた。 先に訪ねたフィンランドが共和制であるのに対して、ノルウェーが立憲君主制であるのは、歴史的な所産かもしれない。 今回のノルウェー旅行には特別の目的がある。 私の好きなテレマーク・スキーの故郷だからである。 テレマーク県モルゲダール村のソンドレ・ノルハイムの生家とスキー博物館をぜひ見学したい。 博物館のアンネ女史と何度もFAXで連絡をとった上、期待と不安の中で訪問した。 (2001年2月) |
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現代スキーの父 ノルハイムの生家 |
オ ス ロ |
1050年に建設されたオスロ市は14世紀に入ってノルウェーの首都になった。 17世紀の大火を機に時の国王クリスチャン4世が市を西に移動させ、自分の名をとってクリスチャニアと名付けたが、1925年以降は元のオスロに戻っている。 私達はオスロ・カード(1日券は180クローネ、約2500円、公共交通機関は無料、博物館は無料または割引)を利用して、暖かい冬の一日をオスロ市の中心部と近郊の観光で楽しんだ。 |
市中心部 |
オスロ中央駅から王宮までの1.5kmほどのカール・ヨハン通りがオスロの目抜き通り。 ここには地下鉄も通じており、近郊へのアクセス・ポイントにもなっている。 |
駅前にあるオスロ大聖堂 裏に回ってみると、1699年の標識があった。 |
町並は重厚そのもの。 クリスチャン4世の銅像が大聖堂と対峙している。 |
国立劇場 左右にイプセンとビョンソンの銅像が立つ | オスロ大学 ノーベル平和賞はここで授与された(1990年以降は市庁舎で) |
ノーベル平和賞だけが、なぜノルウェーで
言うまでもなく、アルフレッド・ノーベルはスウェーデンが生んだ発明家。 化学賞、物理学賞、生理学・医学賞、文学賞、経済学賞(1969年に追加)の5つは、スウェーデンの首都ストックホルムのコンサートホールで授与される。 ノーベル平和賞だけがノルウェーで授与されるのはなぜだろうか。 1895年にパリで綴られたノーベルの遺言によれば、各賞はそれぞれスウェーデンの機関により選出されるが、平和賞のみは「ノルウェー国会が選出する5人の委員会によって」選出されなければならないと記されているからである。
ノーベル平和賞だけがノルウェーに託された理由は、@当時ノルウェーではスウェーデンからの独立運動が盛んであったので、両国間の紛争の危機を回避しようとした、A19世紀後半、ノルウェー国会が国際的な仲裁活動に積極的であったことに感銘した、という説がある。 (百瀬宏・村井誠人監修 「北欧」 新潮社 による)
北欧諸国の支配の歴史と共存共栄の努力が窺われて興味深い。
カール・ヨハン通りを見下ろすように建てられた王宮は1822年に着工し1848年に完成した。 王宮前には当時のスウェーデン国王カール・ヨハンの馬上の銅像がある。 因みに、ノルウェーは1814年から1905年までスウェーデンの支配下にあった。 |
国立美術館には、ピカソ、ゴッホなどの近代ヨーロッパ画家の作品が多数展示されている。 特にノルウェーの画家ムンク(1863−1944)の作品は多く、有名な「叫び」はここにある。(ムンク美術館にはない) ムンクの初期の作品は印象派風であるが、次第に人間の内面を表現するようになる。 生命、死、病をテーマにした作品も多い。 祖国ノルウェーの風土と無関係ではあるまい。 (上記 「叫び」は、美術出版社 MUNCH より部分引用) |
ホルメンコレン |
ノルディックスキーの本場ノルウェーの中でもホルメンコレンはジャンプ台で有名である。 そして付属するスキー博物館はスキー愛好者にとってぜひ訪ねたいところである。 後日見学したモルゲダールのスキー博物館が現代スキーの父ノルハイムの業績を中心に展示しているのに対して、ここはアルペン、クロスカントリー、ジャンプ、さらにスノーボードまで、広くその歴史を展示している。 |
ホルメンコレンへはオスロから地下鉄(すぐに地上に出る)で30分。 | 1952年のオスロ冬季オリンピックで使用されたジャンプ台は改造により標高差127mに倍増されている。 ジャンプ台の下が、有名なスキー博物館である。 |
ちょうど学生大会が行われているらしく、若者が元気よく飛んでいた。 選手のスキー板の側で記念写真を一枚。 |
ナンセンの北極探検(1893−1896)とアムンゼンの南極探検(1910−1912)の展示 | 19世紀のサーメ人のスキー |
スキー板の歴史 | 締具の歴史 | ポールの歴史 |
モルゲダール村出身ののソンドレ・ノルハイムの業績を示す展示もある |
フログネル公園 |
王宮の北西約2kmにあるフログネル公園は、広大な敷地に193体(延べ650人)の彫刻がある彫刻公園である。 とりわけ目立つのは天に向かって121人が絡み合った高さ17mの石柱である。 |
公園の最上部から先刻訪ねたホルメンコレンのジャンプ台が遠望される。 | 広い公園の中にはクロスカントリー・スキーのためのトラックが切られている。 |
ヴァイキング船博物館 |
ヴァイキングの語源は「入江の民」とするのが一般的であるが、「不在」であるという説もある。 彼ら不毛の地の農民は、故郷を出て「出稼ぎ」をしたのである。 ヴァイキング時代とは8世紀末から11世紀半ばを指すが、彼らはコロンブスの新大陸発見(1492)よりも500年も前に北アメリカ大陸に渡っているという。 ヴァイキングといえば海賊を連想するが、発掘された船もさることながら、副葬品や日用品を見ると、ヴァイキングが身近に感じられる。 |
1904年に発掘されたオーセバルク船 800年代から50年間使用され、女王の墓として埋葬されていた。 | 副葬品や日用品も展示されている |
モルゲダール |
今回のノルウェー旅行の第1の目的は、現代スキーの父といわれるソンドレ・ノルハイムの生家を訪ねることと、モルゲダールのスキー博物館を見学することである。 ノルハイムは1825年モルゲダールの地に小作人の子として生れた。 スキー用具の改良に成功するとともに、自らもスキーの名手であった。 1868年に彼はモルゲダールから首都のクリスチャニア(現在のオスロ)までクロスカントリー・スキーで出かけ、スキー・コンテストで優勝した。 彼は29歳で同年の妻を迎え、8人の子をもうけたが、貧しかった。 息子の勧めもあり58歳のとき米国に移民し、1897年に72歳で亡くなった。 その後彼の妻は104歳まで長生きした。 我々テレマーク・スキー愛好者にとってノルウェーのテレマーク県モルゲダール村は正に聖地である。 |
モルゲダールは、オスロから長距離バスで西に4時間のところにある人口300人の寒村である。 不安な気持ちで2人だけでバスを降りたが、上の看板を見たときは正直言ってホットした。 |
モルゲダールスキー博物館 |
スキー博物館は大きく分けて3つの部屋から成る。 第1の部屋では原始時代から現代までの4000年のスキーの歴史を8分間のマルチ映像で見せる。 第2の部屋は1850年代のモルゲダール村とノルハイムの業績、スキー製作ショップ、南極探検、3回の冬季オリンピックの聖火リレーのこと、などが詳しく展示されている。 最後の第3の部屋はワイドスクリーン映画で、人間業とは思えないテレマーク・スキーの妙技を見せてくれる。 |
ノルハイムのスキー改良点は2つ。 第1はスキー板の中央の幅を狭くして回転し易くしたこと。(カービィング・スキーの先駆け!) 第2は従来つま先だけを引っ掛けていた締具を、踵も引っ掛けるようにしたこと。(スプリング式テレマーク締具の先駆け!) |
1850年代のモルゲダールの朝 | アムンゼンの南極探検にスキーは使われた |
スキー博物館の前に、聖火台とノルハイムの銅像がある。 聖火は昼夜燃え続けていた。 |
ノルハイムの生家 |
ノルハイムの生家は博物館から3kmほど山の中に入った所にある。 博物館のアンネさんが案内してくれた。 可愛い息子さんがスノーボードをするためについて来た。 |
生家にはベッド、テーブル、暖炉があり、ノルハイムと妻の写真が掲げられている。 オスロ(1952)、スコーヴァレー(1960)、リレハンメル(1994) の3回の冬季オリンピックの聖火は、ここノルハイムの生家の暖炉で採火されたという。 |
ノルハイムの遠縁(弟の曾孫とか)のご婦人 | アンナさんに 「ちょっと寄って行きなさい」 と声を掛けて下さった方の家を私達も一緒に訪問し、ホームメードのクッキーとお茶をご馳走になる。 この家のご主人は工芸家で、自慢の作品を拝見する。 |
テレマーク・スキー |
モルゲダールには小さなスキー場がある。ここで念願のテレマーク・スキーが出来た。 (左)ホテルでアルバイトをしている学生さん、(右)小生 |
雪上ハイキング |
ここにもクロスカントリー・スキー用のトラックガ切ってあったが、かなりの山岳コースなので、私達は雪上ハイキングにした。 リスがマツカサの実を食べていて、春のような陽気であった。 |
ノルウェーでは、博物館のアンネさんの計らいで、首尾よくノルハイムの生家とスキー博物館を見学できた。 宿泊したモルゲダールホテルでは心温まる歓迎を受けた。 まるで信者が聖地巡礼を成し遂げたような満ち足りた気持ちで、モルゲダールを後にした。 |
モルゲダールの夕焼け |
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